年季の入った店看板、店内に並んだ名物菓子の品書きや数々の表彰状。
黒部紀行、針ノ木峠、高瀬の真珠、幻のうば玉…
3年前に店主の柳澤 武さんが亡くなるまでショーケースに並んでいたオリジナル菓子の銘だ。
今は店主の奥さんの澄子さんが仕入れたお菓子を中心に販売しているが、ここのおせんべいや豆菓子はスーパーやコンビニではありそうでない、どれも目利きが仕入れた味は確かなものばかり。なにげなく手にしてから、美味しくて何度もリピートしている。
店内のレジ横にはお客さん用の椅子があり、近所の常連さんが顔を見せては、おしゃべりをしていく。
看板商品のひとつ「豆板」は店主が幼少時を過ごした上海のお菓子を再現したもの。現在は企業にお勤めの息子さんが時折作るとすぐに売り切れてしまうとか。
嫁ぐ前は旧電電公社で経理担当のオフィスレディーだった澄子さん。
ご主人は腕利きの和菓子職人で、数々の創造的なお菓子を制作し、県内外の数々の品評会の受賞歴も多数。 長年お店を営むうちに澄子さんも和菓子を一緒に作るようになる。
「昔はお祭りでたくさんお菓子を売ったもんだよ。
今は商店街もポツンポツンと寂しいけど、点在しているお店がもう少し繋がればいいよね」
大町には町の規模にしてはお菓子屋さんが多い。現在は最盛期の3分の一ほどに減ってしまったが、当時は40軒以上あったという。これは街道沿いの宿場町だったということもあるが、近代になって大きな紡績工場ができたことも理由の一つと言われている。その多くがお殿様に献上する高級菓子でなく、まちの女工さんや庶民のお茶請けとして暮らしに寄り添う存在のもの。
以前ショーケースにたくさん並んでいたお菓子の数々。幻の和菓子などと聞いたらますます食べてみたくなる。
いつか復活してくれる日を願いつつ、お母さんとのおしゃべりとお気に入りの煎餅と豆菓子を求めに通っている。
柳澤製菓
長野県大町市仁科町3303-3
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