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大人たちのオアシス

市街地から西へ2キロほど、高瀬川にかかる観音橋を渡ったところにこの店はある。端を扉を開けると一気にコーヒー豆の芳ばしい空気に包まれ、奥では焙煎機がリズミカルに音を立てて回っている。スモーキーな店内には、一服のコーヒーでひと息つく人々の脇で、常連客が慣れた様子でいつもの豆をオーダーしては持ち帰っていく。

いわゆる自家焙煎コーヒー店は最近増えつつあるが、ここはオリジナル焙煎機による焙煎豆の販売も行う豆工房。オーナーの永瀬泰弘さんが自作の焙煎機でローストしたコーヒーが味わえるのはもちろん、世界各国から仕入れた約30種類の豆の中から、季節や好みに合わせて選んで焙煎してくれる。(ちなみに最近私はグアテマラの中煎りが気に入っている)


元航空会社の整備士だった永瀬さんの実家は「鋳物の町」で知られる埼玉県川口市の鋳造所。約10年程前にコーヒー好きの仲間と試作から作り始めたテスター焙煎機だが、今はコーヒー器具卸店や店舗に卸すほどだ。


幼少期には夏休みを親戚の住む長野で過ごすなど山や川など自然に親しんでいたが、仕事でアンカレッジで過ごし、大自然を満喫した経験から、さらに渓流釣りや登山など本格アウトドアを楽しむうちに6年前に川口から大町に移り住むことに。

自宅兼店舗の裏に広がる畑は全てひとりで耕し、野菜を育てているが、食べきれない分をお客さんに分けている。「真っ直ぐなきゅうりはお客さんにあげて、俺は曲がってやつしか食べないんだよ、おかしいなぁ」と豪快な笑い声。


鉄を打ち、薪を割り、畑を耕し、川で大物を釣る。そんなスケールの大きな永瀬さんの淹れるコーヒーはどこまでも緻密で繊細。いわゆるスペシャルティコーヒーを取扱っているサードウェーブ系のコーヒーショップにはない、少し無骨で気取らないマスターの雰囲気が周囲の大自然の空気に合っていて、妙に居心地がいい。ここはこのまちの大人たちのオアシスなのだ。

豆工房 彩乃季

長野県大町市常盤5640-46

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